レパートリーのこと1〜大西洋ワルツ

 小松崎操です。寒い日が続きますね。屋根に積もった雪の動向が気になるこの頃です。

 

 今回の日記は、RINKAのレパートリーのこと。4枚目のアルバム「Black Diamond」に収録した「太平洋ワルツ」について、以前mixiのコミュに書いたものを転載しました。長いので、お暇な時に読んでいただければ幸いです。【2012.2.3】

 

 「大西洋ワルツ」は、アイルランドのフィドラーで作曲家のモイア・ブラナックが作った「A West Ocean Waltz」と、私が作った「Appalachian Waltz」をセットにしたものです。このセットについて、懐かしい<ジッピー・アコースティック・ナイト>のプログラムに書いたことがあります。 

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アパラチアのワルツ〜2007年9月17日 
 アイルランドから新大陸への最初の移住者は、米国東部山岳地帯のアパラチア周辺に住みついた人々だったそうです。彼らは、根っからのアイルランド人では ありませんでした。17世紀に宗教の問題で英国政府と対立し、スコットランドからアイルランド北部アルスター地方に移住した、主にプロテスタント系のスコッチ・アイリッシュと呼ばれる人々です。18世紀には、さらに英国の迫害を受けてアメリカに渡っていきました。人里離れた土地を開拓したスコッチ・アイリッシュの子孫は、アパラチアで育った伝統音楽、オールドタイムを演奏し、後にブルーグラス音楽を作り上げました。■スコッチ・アイリッシュより少し後 に、アメリカの都市部に移住したのは、カトリック系の古くからのアイルランド人です。こちらは故郷との絆が強く、移住先でもコミュニティを作ってアイルランドの文化を大切に受け継ぎ、故郷の音楽を世に広めました。■今回の新曲「A West Ocean Waltz」は、モイア・ブラナックというアイルランドのフィドラーが作った曲です。アイルランドから大西洋を渡ってアメリカへ向かった人々のことを思った曲だそうです。彼女のイメージする移民は、生粋のアイルランド人のことかもしれませんが、私はこの曲から、アパラチアの山奥に住みついた人々のことを思い浮かべます。アイルランドもスコットランドも真の故郷とよべず、帰るところがないような、頑固なスコットランド人の血を引く人たちのことをイメージして 「Appalachian Waltz」という曲を作り、「A West Ocean Waltz」に繋げてみました。 
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 ブルーグラス・ミュージックの創始者であるマンドリン弾きでボーカリストのビル・モンロー(1911年9月13日-1996年9月9日)は、スコッチ・アイリッシュの子孫でした。自らはスコットランド人の血筋であることを誇りに思っていたそうです。 

 私が「Appalachian Waltz」を作った直接のきっかけは、ある日、星くんが古いカセットテープを持って来たことに始まります。それは、私と星くんが参加していた「Morning Special」というブルーグラス・バンドの練習の録音でした。北大の学生だったドブロ弾きのミカちゃんとバンジョー弾きのアイちゃん、ベースのサカイくんと組んでいたバンドです。バンド名が表す通り、朝練が中心のバンドでした。星くんは遅刻の常習で、最後まで現れないこともありました。それはさておき、テープを聴いて、渋い選曲に笑ってしまいました。その多くはミカちゃんの好みでした。何がカナシくて、ハタチそこそこの女の子がこんな曲をやるのだろう。 
 そんな懐かしい音を聴いてイメージが湧いて作ったのが「Appalachian Waltz」です。曲の後半は、ビル・モンローの名曲、本当に美しい曲「Summer Time is Past and Gone」を意識して作りました。 

 しばらくは、RINKAふたりだけで演奏していましたが、アルバムを作る段階になって、何かもうひと工夫したいということになりました。そこで星くんが提案したのが、マンドリン弾きのキンちゃんこと金一健さんの参加でした。私にとってもイメージどおりのことでした。キンちゃんには「A West Ocean Waltz」ではメロディーを美しく、「Appalachian Waltz」では、バッキングを自由に弾いてもらおうと思いました。キンちゃんとの録音は、一応打ち合わせはしたものの、殆どぶっつけ本番でした。キンちゃんのマンドリンはアドリブがいちばん。「Appalachian Waltz」のバッキングは、ビル・モンローを彷彿とさせる素晴しいものです。そして、この曲は、ライブでは星くんはブズーキを弾いていますが、録音では、私の希望で、ブルーグラスらしいギターも入れてもらいました。 

 後には、この曲をモチーフに、フォークシンガーで、RINKAが何度かライブをやらせていただいている「楽天舎」を経営する浅井のぶさんが「風のワルツ」という曲を作ってくださいました。優しくイメージの広がる曲で嬉しかったです。 

 そんなふうに、いろいろと思い入れのある曲です。この人がいなかったら、私はアイリッシュ・ミュージックとも出会っていなかったと思う・・・ビル・モンローの命日と誕生日の間の日に書いてみました。 (2010年9月11日)